ニーチェ「迷信の二大敵は、文献学と医学」
『「此世の智慧」(狭義には、いっさいの迷信の二大敵である文献学と医学)を「愧(はずか)しめん」とする神、パウロの考案した例の「神」は、じつを言えば、かく行わんとするパウロ自身の果敢な決意にほかならない。(中略)パウロは、「此世の智慧」を愧しめんと欲する。
つまり、パウロの敵は、アレクサンドリア的な修練を積んだ達者な文献学者と医者なのだ。ーーパウロは彼らに挑戦する。実際、文献学者と医者を兼ねている人ならば、その上さらにアンチクリストである必要はない。
というのは、文献学者として、人は「神聖な書物」の背後に眼をやり、医者として、典型的なキリスト者の生理学的頽廃の背後に眼を注ぐことになるからだ。医者は「不治」と診断し、文献学者は、「贋作」と鑑定する。……
p.233
出典:
『アンチクリスト』
(あるいは『反キリスト者』)(Der Antichrist-Fluch auf das Christenthum, 1888)
47節
西尾 幹二 訳(1991年)
『偶像の黄昏・アンチクリスト (イデー選書)』白水社
p.232-233
『アンチクリスト』で、ニーチェが、「迷信の二大敵は文献学と医学」と書いているのが、興味深いです。